Oct 6/2003 [考察] 福島県いわき市でのMRI爆発事故(v.2.3)
10月9日追加:このホームページの記事について、低温工学の専門家や、ヘリウム関連作業に関する専門知識のある方からメールをいただいております。この場を借りまして厚く御礼申し上げます。お聞きした内容を元に修正いたしました。なお、原因がだいぶわかってきたのですが、現時点でいえることは、通常の撮影中にこのような爆発が起きることはありえないということです。本ホームページは患者さんもご覧になると思いますので、その点を強調しておきたいと思います。なお、患者さんに必要以上の不安を与えないという意味で、近く専門的内容は磁気共鳴学会員のみが見れるような格好にし、患者さん向けにはわかりやすく簡潔な解説を行おうと思っております。

でに新聞・テレビなどで報道になったごとく、福島県いわき市の病院で、MRIを新機種に交換する際に行われたヘリウムガス抜き取り中に爆発事故が起こりました。重傷者もでており、被災された方には心よりお見舞いを申し上げます。

クエンチ自体はそれほどまれでなく起こっている事故ですが、爆発というのは聞いたことがありません。けが人がでたこともあり、現場で働いている医療関係者の関心はきわめて高いものと思われます。

 私はホームページとMRIに関する著作を持っておりますので、今回の事故は人事ではありません。電話取材も受けました(記事)ので、細かく調べたいと思っております。

10月8日追加原因の一端として窒素の凝結が示唆された) 

現地の病院でぜひ拝見したいと思い、病院にもご許可をいただきました。しかし現在現場検証中であり、入ることができません。そこでいろいろと調べ、また知人の協力も得まして少し細かいことがわかりましたので、その原因を推定してみたいと思います。

なお以下にも書きましたが、これは暫定的な知識を元に欠きましたのでなにか不都合がある際にはどうぞお知らせください。また内容については修正をすることがあります。

実際のMR装置の内部構造を写真で解説しました。


(写真をクリック)

  

MRI爆発事故の原因に関する考察

以下は現場を見ていない状態の、暫定的な推論です。また、現在製造元の技術者からの情報は(捜査中であることにより)得られていません。したがってこの推論はかならずしも正確ではありません。あくまでも医療関係者に、MRI構造の概略を速報としてお伝えする目的ですのでどうぞご了承ください(説明図も現在のところ正確ではありません)。なお内容に誤りがある場合にはお手数ですが至急メールにてご連絡をお願いします。

■全体のシステム構成

図1はヘリウム容器の全体的なシステム構成である。

@はBurst bulbと呼ばれており、何らかの原因で液体ヘリウムが急激な気化を生じ膨張したときに、中の圧力を外に逃がすためのものである。

Burst bulbを通ったヘリウムガスは、排気管(A)を経由して病院の外に排出される。

Bはヘリウム容器である。

ここには満タンで1000〜2000リットルの液体ヘリウムが入る。超伝導MRI装置においては、強力な磁場は電磁石(コイル)に大電流を流すことにより得る。このような大電流はコイルの抵抗により大きな熱損失を生じるので実用的ではない。このためコイルが超伝導状態になるまで冷やす。このために使用されるのが液化ヘリウムである。いったんコイルを臨界点以下まで冷やし、そこに大電流を流すと、超伝導状態では抵抗がゼロであるため電流は流れ続ける。この結果MRI装置には24時間強力な磁場が発生する。(このことに関する知識の欠如により、医療関係者や清掃関係者が磁性体を持ち込む事故が毎年起こっているが、これは本事件と関連がないので本稿では割愛する=事例についてはINNERVISION誌記事、および拙著「MRI準備体操」をご参照ください)。

Cは冷凍ポンプである。大雑把に言えばクーラーと同じ原理により圧縮・伸張を繰り返して中の金属を冷やし、熱伝導により中のヘリウム容器を冷却する。Dは真空ポンプ、Eは真空容器である。ヘリウム層の極低音を保持するために魔法瓶構造になっていると考えればよい。
(10月9日追加:なお真空ポンプは通常はついておらず、メンテナンス時に必要なときだけ装着するとのことである(普通はシールされているので通常のメンテナンスでは開けない)=複数の方からメールをいただきありがとうございました。)

Fはヘリウムを充填するときの管、Gはヘリウムを取り出すときの管である。


■Burst bulbの構造

Burst bulb構造の概念図を図2に示す。

以前はAのような構造をしていた。すなわち、ヘリウム層側の圧がバルブのスプリング圧力よりも高くなるとbulbが開いて排気されるというものである。この方式は、スプリングというメカニカルな部分を構造に含んでいるため動作不良(ひっかかりなどで開かない)可能性がある。

実際にこのような事故は以前に起こっている(ただしこのときには爆発事故には至らず、MR撮影室内にヘリウムガスが漏れ出し充満した)。

このため現在はBのような単純な板状の構造(Burst plate)に改良されている。これは、火災報知器のボタンカバーと同じようなものであり、規定以上の圧力がかかると破れるような強度に設計された板である。この改良により、もしヘリウム層側に規定の圧がかかれば間違いなく排気できるようになったと考えられる。ただし、後述するように、もしこのbulbの入り口をふさぐようなもの(固体化した水や窒素などの不純物)があれば圧自体がかからないので、動作しない可能性がある。


■排気管の構造

図3に構造を示す。クエンチパイプと呼ばれている。

クエンチ(すなわち液化ヘリウムの爆発的な気化)が生じたときにうまく圧が逃げ、不純物が凍りつきにくいように徐々に径が大きくなるような構造をなしている。その後は単純な「煙突」であるが、この排気管が詰まるような状態(たとえばMR室のシールド工事の際に壁の中を貫通する部分が折れ曲がったとか、規定に反して排気口になにかが置かれていたとか)があればMRI装置内部の圧力が高まって爆発する可能性はあると思われる。


■事故の原因推定

事故が起こった病院関係者の話、および報道関係者からの話では、MRI装置自体が爆発したとのことである。したがって中のヘリウム層の内圧が高まって爆発したものと推定される。事故の原因としては次のようなものが考えられる。

1)排気管の故障

 排気管に詰まりがあると、ヘリウム層の内圧が高まって爆発する可能性がある。しかし前述したようにバルブの故障は構造上考えにくい。排気管がMR装置の外で折れていたりした場合には爆発は考えられる。装置をみることにより排気管の状態はある程度判断可能と思われる。

2)Burst bulb入り口の詰まり

 これは十分に考えられる。ヘリウム層内に何らかの不純物が入るとbulb周囲において固化すると考えられるからである。不純物(たとえば空気中の窒素)はヘリウムに比べて凝固点がずっと高い。このため液体ヘリウムに接すると固体の窒素になる。空気中の水分(水蒸気)はもちろん容易に氷結をきたす。

ひとつの可能性として考えられるのは、ヘリウムを液体のまま回収しようとすることである。ヘリウムは高価であり、液体ヘリウム1リッターあたりおおむね1500円程度の値段である(つまり1000リッターならば150万円)。したがってこれを回収して再利用することは十分に考えられる。

液体ヘリウムを回収する場合の説明を図4に示す。

このように、ヘリウム層内にヘリウムガスを送気(@)すると、サイフォンの原理で反対側の管(A)に液体ヘリウムが押し出されてくることになる。

前述したように、注入するヘリウムガスにもし空気などの不純物が混入されているとこれが凝結を来たす。もし排気側が詰まればクエンチを起こした際に圧の逃げ場がないことになり危険なので、混入がないように十分注意する必要がある。不純物の混入の可能性は無視できるほど低くはない。このため、常に圧をモニタして異常な上昇がないかどうかチェックする必要がある(B)。また、このようなことは送気によらなくても、何らかの原因でヘリウムが外気に触れた場合に起こり得る。

(なお通常のヘリウム充填作業はここをご覧ください)


3)Burst bulb最大流量想定以上のヘリウム気化

 Burst bulbは通常のクエンチにおいて十分な性能を発揮するように設計されている。「通常のクエンチ」とは、非常磁場停止ボタンを押すなどしたときに起こる現象である。

非常磁場停止ボタンの概念図を図5に示す。

ボタンを押すと、コイルに接した電熱線に電流が流れ発熱する。この結果超伝導コイルは暖められ、超伝導状態が崩れて発熱する。液化ヘリウムも温められるのでいっせいに気化する(クエンチ)。この現象はおおむね30秒〜1分を要する。Burst bulbの径はこれに十分耐えられるだけのsafety marginをもって設計されているはずである。しかし想定外の爆発的気化が生じた際には相対的狭窄を生じる可能性があると思われる。

 このような、想定外の爆発的気化は起こらないはずである。しかし今回は機種交換の際に生じた事故であることが注目される。(10月9日以下の真空ポンプに関する記述を修正)真空ポンプは通常ついておらず、必要に応じて装着する。移設作業のために装着していたとすれば、何らかの原因で(たとえば他の重い道具を移動する際などに)真空ポンプが外れるようなことが起きると、真空容器には暖かい外気が入り、結果としてヘリウムが想定外の速度で気化する可能性がある。この現象は通常のクエンチとは異なり数秒で完了すると考えられるので、出口における排気が間に合わずに内圧の上昇を招き、爆発した可能性がある。もし先にこの真空ポンプが(完全に)脱落して気化が始まった場合には、真空ポンプはMR装置のそばにころがっている可能性がある。真空ポンプが遠くに飛んでいる場合には、(真空ポンプが不完全に脱落場合を除けば)排気側の問題である可能性も高い。そのほか、(普通は起こらないはずだが)何らかの原因でヘリウム層と真空層との間に連絡が生じても同様のことが起こるはずである。

(10/6 13:00追加)ところで、今回のヘリウム抜き取り作業は、周囲の真空層に空気を徐々にいれることでヘリウムを段階的に気化させるような手順をとったようである。真空容器内には非常に強い陰圧がかかっているため、これを調節しながら空気を入れる作業が困難であり、この結果急激に真空層に外気が進入し、ヘリウム層内の液体ヘリウムの温度が上昇して圧が高くなったことが考えられる(突沸)。またこの際に、前述した不純物混入などによる凝結が起きていれば内圧上昇を効果的に解消することができなかった可能性がある。(10/8 01:00追加新聞記事によると、事故前日に開放した排気管から空気が逆流し、窒素が排気管内に凝結していた可能性が示唆された。)

 なお通常の新規装置への変更作業のときは(だいたい1年ぐらい前から予算を組んだりするため)、徐々に抜けているヘリウムの再充填をしないでおいて、交換時には大量のヘリウムが残らないようにするのが、経済上も安全上も望ましい。今回の場合にどの程度のヘリウムが残っていたかはわからないが、大量であるならば十分に留意する必要があったとは思われる。


■チェックリスト

以上の考察を元に原因推定のチェックリストを挙げるとすると、

・MRI装置本体が爆発したかどうか。

・排気管の損傷範囲はどこまでか。

・排気管の出口および経路(シールド貫通部)には問題がないか。

・排気管から白い気体(ヘリウムにふれて液体になった水)がでていたか。

・Burst bulbは破れているのか、破れていないのか。

・真空ポンプの存在状態(MRI装置についているか、外れて落ちているか、遠くに飛んでいるか)

・ヘリウム注入(もしくは自然気化)時の圧力モニタ状況はどうであったか。

・(ヘリウム注入を行ったとすれば)注入ヘリウムガスの純性は保たれる状況であったか。

・ヘリウムの残量はどの程度あったのか。

・真空ポンプのバルブはどうなっていたか。

などが考えられる。

- 以上 -


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