Nov 30/2007 MITT社のどこでもTeleradiology用Viewer
スター会場を歩いていたら、慈恵の中田先生にお会いしました。中田先生は知る人ぞ知るInformaticsの大物で、RadiographicsのReviewerもしているんです。その中田先生がゼッタイ見て欲しいものがあるというので、言われるままにそのポスターのところに行ってみました。
左側が中田先生です。そして右が札幌医大の放射線科医、土本 正先生。弱冠31歳。

名前の通り、とても態度が礼儀正しい人でした。

中田先生が証するに、彼は中田先生が過去にめぐりあった中で最高に能力の高いソフトウエアプログラマーということです。正直言ってあんまりviwerそのものには興味がなかったのですが、それならということでお話を聞かせていただきました。

これが発表していたポスターです。
タイトルは.... Open Source Web-based 2D/3D PACS Using Asynchronous JavaScript and XML(AJAX) and Clustering Technology....、

意味、分かります?わかんないですよね。

Open Source: 誰でもダウンロードできて
Web-based: Webで使うことができて
Asynchro......AJAX: リアルタイムでページめくりとかいろいろなことができるような
Clustering....: いくつものサーバーを使えたり、たくさんの端末で使っても速度が保持される

PACS、とでも言ったらよいでしょうか。

まぁ、ひとことで言えば、どこでもTeleradiologyを出来るようにする魔法のソフトです。

これがメインの画面です。写真ではお伝えできないのですけれど、超高速に作動するのが印象的でした。診断医が作るものは、だいたいこのように、まずめくり速度ありき、という設計思想が多いように思います。僕らの仕事を考えればそこには妥協できないわけですのでね。

(そういえば、筑波大の南教授が、「ね、高原先生、PACSって、めくってみて遅いのは全部ダメだよね」、とお話されていたことを思い出しました。実は全く同感です*。)

Web baseの画像って、院内配信でよく見ますよね。たとえば、放射線科部門内はDICOM viwerで見るけれど、院内配信はJPGで行ってWebで見るっていうやつです。

このとき、12bitではなくて8bit (256階調)の普通のJPGを使うと、当然通常のDICOMの12bit=4096階調はないですから、フルレンジのWindow変更は行えません。ですから8bitJPEGの場合は、技師さんや機械がWindowを適当に設定したものを作り、これを院内配信していますね。

しかしこのアプリでは、8bitJPEGでもこのような肺野条件までもっていけてしまうのです。

マウスを動かしたときのWindow条件を動的に感知してフィードバックし、瞬時に対応する256階調を有するJPEGを配給するというすごい仕掛けが組み込んであるからです。やってみましたが、ユーザーはそのような処理が後ろで行われていることは知らずに、リアルタイムで簡単にWindowを変えられます。

これが意味するところはお分かりでしょうか。たとえばシカゴのホテルやRSNA会場の無線LANからでも、4096階調できちんとした診断ができる、ということです。だから「どこでもteleradiology」と言えるわけですね。そういう名前はついていないけれども。うん、案外いいですよこれ。「どこテレ」っていう商品名にしません?

普通、JPGにしてしまうと、距離計測やROIもダメになりますが、これはDICOM情報を読み取っているので、マウスを動かしたピクセル数から実際の大きさを割り出して計測ができます。

というわけで、診断においてとくに不安な部分はないわけです。

こちらはもうひとつのアプリで、Flashで書かれています(バイナリにしてあるのでこれはOpen Sourceではありません)。もともとJavaで書いたけれど、Flashにしてみたということでした。

サーバー側でまずVolume dataを作り、これをすべて端末にダウンロードした上で、自由にMPRやMIPができます。厚みの動的な変更や、回転軸の変更などに対応しています。

Volume dataをダウンロードというと、なんだか無駄のようにも思いますが、もともとの2Dのデータを落とすのに比べて1/2程度のデータになるのでトラフィックは少なくなるそうです。

書ききれないのでこのコラムに追加します。

サーバー上のVolume dataはキャッシュされるようにしたので、他の人が同一データにアクセスしたときもサーバ処理に影響を与えないと言うことでした。よくあるアプローチとしては、いくつかの端末から同一データ照会するとき、すべてサーバーで処理を行いますから、アクセス数が増えると動作が遅くなります。これを防ぐために、volume dataをダウンロードしておいて、MPR/MIPなどの処理は端末で行う、という思想のようです。

おまけで作ったのがこれで、これは手前側(赤色表示)がMPR断面、向こう側の白いのが奥行き方向のVRで、鏡視下手術をシミュレートできるよう、奥の方(ライトが届きにくく暗くなる)は、低輝度になるように調整した、ということでした。

Flashなので画質は良くないが、むしろ高速性能を優先した方が理にかなっているということでした。そうです。診断の傍らにみる画像としてはそういう観点が重要だと思います。

いうわけで、これはOpen-Sourceなのですから、独立放射線科医には朗報ですね。土本先生はいま(1)医局に在籍しながら、(2)MITTという会社を立ち上げてこのアプリを一人で作り、(3)かつ大学院では放射線被曝にもとづいて発生する遺伝子障害の機序を研究**しているという、超絶なマルチタレントぶりを発揮しているようです。まあこんな人もいるんですねぇ。脱帽です。31歳、前途洋々だなぁ。徹夜ができなくなるまでにあと9年あるから、それまでにたくさんはたらいて皆をらくにしてほしいな〜、と思います。


私はアプリ開発については詳しくわかりませんが、このようなviwerが満たすべき性能や、有すべき機能、UIなどに詳しいつもりなので、さっそくいくつかの改善点についてお話させてていただきました。以上、あんまりすごかったので、ちょっとみなさんにご紹介しようと思いました。

ちなみにMITT社に興味がある人は、http://mitt-web.com (email: info@pgctn-mitt.net)へどうぞ。アプリのダウンロードもできますよ。

*実は全く同感です:

これは大切な点なので、もうすこし追加して書いておきますね。このページめくりという機能に要求されているのは、たぶん、「性能」ではなくて「官能」なんです。たとえば将棋をするのに、最初は100円ショップ(最近は100円で買えたりするんですホントびっくり)で買ったものでもいいけれど、上達するとパチーンという駒の音を聞きながらやりたくなりますね。自分は両親共稼ぎだったから小さいときから包丁を使っていましたが、キャベツの千切りするのに、サクサク切れる能力があるなら、なまくら気味の包丁は研いでから使いたい気持ちになります。車だったら、アクセルの踏みしろに対するタコメータの追従している感じとか、ステアリングをきったときのヨーの発生の仕方とか、いいものを使っているときには一回一回、快感を感じますね。限界時ではなくて、通常負荷時でも感じるものを使いたいですね。放射線科医や技師すべてがそうだとは言えないのですが、我々のなかには、ページめくりにおいてそういった快感を感じながら仕事をしたいと思っている人が無視できない頻度でいるのです。片田教授が根本杏林堂と作ったページめくりに特化した装置もその現れだと思います。

もちろんこういった人がすべてというわけではありません。マウスのカーソル移動速度を調整したことがない、あるいはそんなことができることも知らない人もたくさんいますし、一方では作業内容にあわせて速度を変える人もいます。チューチューマウスを使って(いまはなくなったけれど)トラックボールの掃除間隔を知らせるようにする人もいます。僕は、みんなが使うマウスをいっつも掃除したり、液晶を拭いたりしていました。ディスプレイの性能談義はいいからさぁ拭いてくれよな〜、なんて。これを聞くと、あー俺もそうだよ〜というひと、少ないけれどいるでしょう。まあいろいろな人がいるわけですが、不満を感じて声を上げたり、のろいPACSに毎日苦痛を感じてしんどく思うのは後者のグループの人ですから、彼らにあわせた設計が必要、ということになります。

というわけで、なんだか訳が分かったような分からないような説明かもしれませんが、かようにこのページめくりは、要求性能がとても高いのです。チューニング、といったほうが当たっているかも知れません。BMWのコピー「駆け抜ける悦び」(たぶん喜びじゃなくて悦び)みたいなもの、といったら分かりやすいでしょうか。

**Dec 3/2007 追加: ちょっと難しかったので土本先生に概要を書いてもらいました (^^)

現在研究の方ですが、札幌医科大学放射線医学講座 坂田 耕一助教授先生のご指導を頂きながら放射線生物学の実験をしております。

「放射線による細胞障害の機序はDNAの2重鎖切断であることが判っています。また放射線感受性について放射線に弱い細胞(放射線抵抗性が低い細胞)と強い細胞(放射線抵抗性が高い細胞)があることが判っており、その原因としてDNA2重鎖切断の修復機転が考えられています。(修復能力の低い細胞と高い細胞と考えられています。)また2重鎖切断の修復機転は発癌率にも関係していると考えられています。
上記の知見とは別個に有酸素下/無酸素下での放射線感受性に差異があることが判っています。(有酸素下の方が放射線の生物学的効果が高くなる傾向にあります。)

過去の当科での研究で、2重鎖切断の修復機転のDNA依存プロテインキナーゼ(DNAPK)蛋白が放射線感受性/発癌傾向に関連することを発見されました。上記実験はタンパク質/染色体レベルの実験で判明した発見でした。今回自分はその結果を元に、mRNAレベルで酸素/放射線の生物学的影響を調べる実験をしています。」 とのことデス。