Mar 1/2004 [FAQ] MRIでPETのような画像が得られる方法について
くつかご質問をいただいておりますので、このページで概略を述べます。

どのような方法ですか?
PET(ポジトロン放出断層撮影)と比較してどのような利点がありますか?
PET(ポジトロン放出断層撮影法)と比較してどのような欠点がありますか?
どんながんでも発見できるのですか?
従来の拡散強調画像の歴史を教えてください。
どのMRI装置でも撮影ができますか?
スライス厚を薄くして長時間撮影すれば画像が得られるのですか?

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DWIBS :全身の拡散強調背景抑制法
毎日新聞掲載状況(2004/5/3)
論文[PDF]

DWIBS法による拡散強調画像の例
軸位断撮影を冠状断再構成。
どのような方法ですか?

MRI(磁気共鳴画像)を用いて、PET(ポジトロン放出断層撮影法)に似た画像を得て、悪性腫瘍の分布を知ろうとする方法です。東海大学では、仮に「MR Diffusion PETgraphy」とか「PET-like Diffusion Weighted Image」などと呼んでいます。[注:その後この方法はDWIBS法という名前になりました]。MRIでは、T1強調画像、T2強調画像や、MRA(MR血管撮影)などさまざまな種類の画像が得られますが、このうち拡散強調画像(DWI)と呼ばれるものを使用します。DWIはDiffusion weighted imageの略で、Diffusionは拡散、weightedは重きを置く(強調)の意味です。

PETは、悪性腫瘍スクリーニングの切り札として最近急速に導入が進んでいる最新画像診断です。低被曝で全身を検査できる方法として知られており、もっとも注目されている画像診断方法のひとつといえます。ニュースなどでもごらんになることが多いと思います。詳しくは、一般の方向けに書かれた国立がんセンターのページ(こちら)や、社団法人日本アイソトープ協会のページ(こちら)をご覧下さい。代表的な画像も見ることができます。

東海大学のMR室で撮影したDWIBS法で撮影した拡散強調画像(DWI)読影の様子。

シャウカステンの下の段にかかっている、核医学のような3枚の画像がDWIBS法によるDWI。ちょっと見ではPETなのかMRIなのか分からないほど似ている。

1回の撮影データから、さまざまな方向からみたデータにコンピュータで計算し直すことができる。

PET(ポジトロン放出断層撮影)と比較してどのような利点がありますか?

この質問に答える前に、そもそも今回発表したMRIによる方法とPETがどの程度がんの検出能に差があるかをよく検討する必要があることを述べておきます。この検出能に大きな差があって、もしMRIがかなり劣るようであれば、本法の有用性は低いものです。私どもが今までに得られたMRIとPETとの比較においては相当よい成績を上げていますが(未公開データ)、これについては今後学会などで詳細な検討が必要になります。ここではそれ以外のことについて説明します。

・保険点数が約1/6と低い。
PETはサイクロトロンという装置を用いてまず放射性同位元素を取り出します。これをブドウ糖で標識したものを患者さんに注射します。1時間ほど待って撮影を行います。撮影時間は30分ほどです。
このため用意する装置としては一般にサイクロトロンとスキャナーを合わせて持つ必要がありますので、システムの値段がかなり高価になります。これに対応して保険点数も高くなっています。現在MRIの保険点数は概ね1200点弱であるのに対し、PETは7500点(注:1点は10円)です。健康診断などの自由診療においてはこの限りではありませんが、システムのイニシャルコストが高いぶんだけ、値段は高くする必要があることになります。

・造影(注射)を前提としない。
PETは検査に先立って注射をする必要があります。この注射は極めて安全なもので副作用の危険は一般にありません。しかし今回考案した「MR-PETgraphy」(注:その後「DWIBS法によるDWI」と呼称を変更)では注射を前提としません。つまり、異常が見つかったら造影剤の注射をして細かく調べることはできますが、本法自体は注射の必要がありません。このためPETでは必要な事前の待ち時間(注射した薬剤が体に分布するのを待つ1時間)が不要です。

・被曝が全くない。
被曝に関しては、PETそのものでは我々が1年間に受ける自然放射線と同程度のものですから、心配することはありません。しかし最近では、PETと同時にCTを行うことが重要であると考えられており、これを合わせて行うことによりもう少し多くの被曝をします。こういった被曝は一般に受診者にとって利益になること(癌を発見できる)と、不利益になること(発癌を誘発する)のバランスによってなされるべきですが、一般に前者の恩恵が遙かに大きいと考えられています。またわずかな量の被曝によって本当に発癌のリスクが高くなるのか(あるいはひょっとして逆に低くなるのか)についてははっきり分かっていません。このため現時点でPET自体やPETとCTの組み合わせ検査(PET-CT)の被曝を問題にすることはナンセンスであると考えられています。(ただしCTによる被曝量は全体として増加する傾向にあることが最近わかった(PDF)ので、無用な被曝を極力避けるようなシステム作りや啓蒙活動がいま考えられています。)
前置きが長くなりましたが、MRIでは放射線をもともと使用しないので、上記のような議論が発生することはなく、被曝が完全にゼロであるという潜在的な利点があると言えます。

・空間分解能が高い。
PETの空間分解能は一般に5x5x5mm程度を下限としていますが、今回の方法では概ね2x3x4 〜 2x3x5mm程度です。体積としてはかなり違うことになります。実際の画像でもDWIはかなり鮮明です。

PET(ポジトロン放出断層撮影)と比較してどのような欠点がありますか?

・異常信号の出かたが非特異的である可能性がある。
まだ詳しいことはわかっていませんが、この方法による異常信号のでかたは、PETよりも非特異的である懸念があります。これはどのようなことを示すかというと、本法で異常の可能性ありと診断しても、実際のその後の精密検査では正常であると診断される可能性があるということを示します。しかしこの値についてはまだ詳しく分かっていません。なお、スクリーニング検査としては、一般に感度(がんがあったならそれを捉えることができる力)が高いことが求められています。特異度(異常信号があったならそれが本当にがんであること)は若干低くてもスクリーニング検査としては許容されます。これは、スクリーニング検査というものが、とにかく異常を見逃さないことに重点を置いているからです。

・画像に歪みがでやすい。
もともとMRIは、空気や金属によって磁場が不均一になると画像が歪みやすいのですが、本法はとくに歪みが大きいのが欠点です。このため、あごのあたりなどは実際の位置とかなりずれて表示されたり、金属のそばでは信号が得られなかったりします。

そのほかにもこれから調べることによって限界や問題点がでてくることは考えられます。

どんながんでも発見できるのですか?

本法は空間分解能が良いので、PETより小さな病変を見つけることができる可能性があります。しかしもちろん微視的なものは見つけることができません。これはどんな画像診断についても言えることです。がんの種類に関して言えば、頸部の悪性腫瘍、食道癌、肺門に近い肺癌、腎癌、大腸癌、悪性リンパ腫などでは成績が良いようですが(未公開データ)、これらについてはまだ詳しいことはわかりません。18FDG-PETでは糖代謝の盛んなところを、DWIでは拡散速度が低下したところを診断根拠として異常を求めますが、当然のことながらどちらにも苦手ながんはあるとおもいます。総数においてどの程度の成績差があるかといったことや、得手不得手がどういうものかということによって将来の臨床応用のされかたが変わってくると思います。

従来の拡散強調画像の歴史を教えてください。

拡散強調画像が実際の臨床に使用され始めたのはかなり古く、私が研修医だった15年前ごろから徐々に広まってきました。当時は20分程度かけてたった一枚の脳の断面の画像が得られるだけだったのですが、装置の性能がよくなった7-8年前からは急速にルーチン検査に応用できるようになってきました。今では、比較的新しい装置においてはどれでも脳の拡散強調画像を撮影できるようになっています。最新の画像では一般に数十秒から1分程度で診断に十分な品質を有する脳の断層画像が15枚以上得られます。脳の拡散強調画像は、いまではいろいろな疾患に使用されていますが、このうちとくに重要なのは急性期脳梗塞の診断に利用されているものです。

拡散強調画像は長らく頭部だけの臨床応用の時代が続きました。それは、前述したようにこの方法が、空気のあるところでは歪みが多くて撮影できなかったからです。1998年に山梨大学医学部の市川智章先生が single shot SE-EPI法という方法を用いて肝臓などに拡散強調画像を応用し、がんの診断に役立つことを示しました(AJR Am J Roentgenol. 1998 Feb;170(2):397-402.)。

その後、SENSEと呼ばれる高速化技術が数年前に発明され普及しだしたのですが、これを用いて、国立がんセンター東病院の那須克宏先生が、きわめて歪みの少ない腹部の拡散強調画像を得ることに成功しました。

今回の方法は、これらの成果を元に改良して得られたものです。

どのMRI装置でも撮影ができますか?

今回考案した方法のもっともよい利点に、比較的汎用性の高い技術のみを使用していることが挙げられます。このため、ごく最近販売された機械の多くでは応用可能であると思います。

今回の方法は、東海大学において、フィリップスメディカルシステムのGyroscan Intera 1.5T (Master Gradient)という装置を用いて改良を行ってきました。このため、フィリップス社には全面的に協力をいただいており、さらにこの方法に適したシステムへの改良を行っていただいています。こういったことは近い将来、そのほかの製品にも反映されるものと考えています。

ところで患者さんにとってはとても意外かもしれませんが(そして我々医療従事者にも全く理解に苦しむところでありますが)、今、どんなに古い(言い方は悪いですがどんなにぼろい)MR装置で撮影しても、拡散強調画像が撮影できる新しいMR装置で撮影しても、患者さんが払うお金はまったく同じです。車だって6年で価値がなくなるのに、なぜ医療設備はこういったことが考慮されないのでしょうね。とくにMRIなどのハイテク医療機器は、コンピューターの性能によって大きく差が出ます。みなさん、1995年のコンピュータと今のコンピュータが月とすっぽんほど性能が違うことはご存じですよね。その、月とすっぽんが同じ値段で行われているのですからこれはひどい話です。おまけに、新しい装置に代える良心的な医療施設はコストがかかり、10年前に導入して支払いも終わっている古い装置で撮影を続けているところは丸儲けの状態が続いているのですから、患者さん本位のシステムになっていないことは確かです。また、志高く、装置を更新したいと思っても、最近MRIは点数が3割以上引き下げられましたので、今後のこと(さらに引き下げられる可能性)を考えれば経営者としては当然新規装置の導入にためらいがでます。
 このため、
6年経ったら50%低く保険点数を下げて、そのかわり新しいものには点数を上げることによって全体的な医療費を増やさず(ゼロサム)に性能に応じた価格をある程度反映する、といった考え方が重要だと思っております。そうすればある程度古くなれば機械は更新するようになり、新しい装置はよく売れますから市場原理によって装置の値段は下がることになります。結果として患者さんにとっては全体として新しい装置が多くなるというメリットが生まれます。医療費も上昇しないし、装置会社も開発を続けることでしょう。このままでは、努力しない者がお金を得て、装置が売れずに開発が止まり、医療はじり貧になるのではないかと危惧しています。患者として受診される皆様、磁場強度も大切ですが、むしろ「いつ導入されたのか」ということが重要であるのを覚えていてください。最新設計の1500ccの「カローラ・1.5G」と、10年前の3000ccの「クラウン・ロイヤルサルーンG」とでは、安全性の装備もカローラのほうが良いのです。10年経てば、「ロイヤル」はもはや「ロイヤル」ではないのです。「新しい技術が導入されていること」がいかに大切かがおわかりになると思います。皆様が「導入時期」を気にするようになってくださると、国の政策も変わる可能性があると考えています。

スライス厚を薄くして長時間撮影すれば画像が得られるのですか?

ある程度、そのようなことは言えます。今回の日本医学放射線学会での発表内容のうちもっとも肝要なものは、従来呼吸停止や呼吸同が必要であると考えられていた理論を無視し、自由呼吸下に長時間撮影することにより、信号雑音比を向上させ、これによりスライス厚を薄くすることが可能になり、結果としてPETのような3次元表示ができるようになった点です。したがってこれを行うことによってどの装置においてもかなりの成果が見込めます。ただしスクリーニングの観点から言うと、これだけでは不十分で、常に安定した画像が得られるような工夫が必要でした。つまり脂肪抑制が常に安定して得られることとか、消化管内容物の信号が邪魔になるのでこれを抑制するとか、数ヶ月の間隔をおいて同じ方を撮影したら同じような結果が得られる、といったようなことがらです。こういった日々の改良は、今井 裕教授のご指導を初め、室 伊三男、花木 彰、堀江朋彦さんなどMR室の優秀なスタッフの協力によってできあがってきました。現在これらについて比較的満足できるところにきていますが、詳細は現在論文を提出し審査していただいている状況であり、acceptされるかどうかは分かりませんので現時点で細かくお話することができません。しかし近い将来細かく説明できるようになると考えております。これに対して他の研究者から批判的な吟味をいただくことで方法として成熟するものと思われます。

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